2-7.いろいろな湿度計

2-7-1.燥湿の気

 劉 安( 古代中国漢帝国淮南王 紀元前179年 - 紀元前122年)

劉 安( 古代中国漢帝国淮南王 紀元前179年 – 紀元前122年)

東洋での湿度の概念は、今から2000年以上も昔の、中国前漢の時代、淮南王劉安によって編著された「淮南子」という百科全書の説山訓第21節に、「燥湿の気」として登場します。

『嘗一臠肉,知一鑊之味;懸羽與炭,而知燥濕之氣、以小明大。』

一切れの肉を嘗めて鍋全体の味を知り、(湿気を吸わない)羽と(湿気を吸う)炭(の重さの違い)を(秤に)懸けて空気中の湿度(燥湿の気)を知る。小さなことから大きなことを明らかにする。

「大気=大氣」、「空気=空氣」も道家思想由来の言葉で、「氣」を大切にする道家ならではの気づきです。

淮南子は日本では『古事記』や『日本書紀』にも引用されるほど、古代から有名で日本文化に多くの影響を与えました。

江戸時代に著された「永代三世相大蔵書」に、 「淮南子」に基づいた天秤型湿度計の記述があります。

昭和の中期までは、湿度の代わりに「湿気(しっけ)」という言葉が普通に使われていました。

2-7-2.養蚕乾湿計

信州上田の上塩尻村(現長野県上田市)の清水金左衛門は独自に蓄積した蚕種生産のノウハウを著書と乾湿計にまとめました。

 金左衛門は養蚕農家の失敗例を数多く見聞きするなかでノウハウを蓄積しました。 専門の彫り師や刷り師、絵師を雇い、自宅の別棟を作業場にして印刷と製本をして出版しました。 本文には紙をはりつけて修正した跡が随所にみられます。 明治三年(1870年)までに四回程度、改訂したようです。

 養蚕乾湿計

 清水家に伝わる「養蚕教弘録」は上下二巻。弘化四年(1847年)、金左衛門が数えで25歳の時の著作です。「養蚕の人心得べき事」との書き出しに続き、蚕を飼う上での注意事項が挿絵を交えながら詳細につづられています。

乾湿計の開発

次に金左衛門は、蚕室の湿気を計る器械の作成に着手しました。
養蚕には湿度対策が重要であり、乾湿計を作りこれを養蚕農家の蚕室にかけ、科学的に湿度管理をすることが彼の夢でした。

信州に戻った彼は、自宅と桑畑の間にあった「蠶影神社」の境内に生い茂る野草の穂先が、天候によって形を変えるのに気がつきました。

イネ科の雌刈茅(メカルガヤ)の穂先は湿度に大変敏感で普段は左にねじれているが、
湿度により規則正しく右に回転してねじれが戻り、逆に乾燥すると左にねじれる性質のあることをつきとめました。

この茎を固定し、穂先を切りそろえて時計のような針を取り付ければ、湿気のこもり具合を簡単に見分けることができるのではないか。金左衛門はそう考えました。

この穂先に金箔を巻いた指針をつけ、養蚕に適した指針のふれる範囲を目盛った乾湿計を発明・製作し、「窮理新製作所」の名前で販売しました。

「窮理新製作所」「窮理」とは今の物理のことです。いかにも物理学の応用らしい発明でした。

世話になった人には75銭で譲り、一般の農家には2円50銭から3円で販売したとの記録が残っています。

乾湿計の取扱説明書は、「養蚕乾湿計用方」 (一八七五年/明治八年版)として現存しています。
金左衛門はこの養蚕乾湿計で一八七五年に特許の申請をしようとしましたが、その願いが叶うことなく一八八八年六六歳で没しています。

養蚕湿度計

養蚕湿度計

2-7-3.天秤式湿度計

レオナルド・ダ・ヴィンチ ( Leonardo da Vinci 1452年4月15日 - 1519年5月2日(ユリウス暦))

レオナルド・ダ・ヴィンチ ( Leonardo da Vinci 1452年4月15日 – 1519年5月2日(ユリウス暦))

東洋に1700年遅れで、西洋で空気についての科学的研究が始まったのはルネサンス時代です。
温度計の発明家ともいわれるレオナルド・ダ・ヴィンチは、振り子式の風力計などとともに、天秤(てんびん)ばかり式の簡単な湿度計も考案しています。

乾燥した木綿は湿気を吸って重くなることからヒントを得たもので、同じ重さの球の片方を木綿で包み、もう片方はロウを塗布して、これらを天秤の左右にぶら下げておきます。

湿度が高まると木綿は重くなって天秤が傾くので、その傾き具合を真ん中の振り下げ錘と目盛から読み取るというしくみです。

レオナルド・ダ・ビンチが考えた天秤を利用した湿度計

レオナルド・ダ・ビンチが考えた天秤を利用した湿度計

2-7-4.毛髪湿度計

オラス=ベネディクト・ド・ソシュール(Horace-Bénédict de Saussure、1740年2月17日 – 1799年1月22日)

オラス=ベネディクト・ド・ソシュール(Horace-Bénédict de Saussure、1740年2月17日 – 1799年1月22日)

もっと精度の高い湿度計を考案したのは18世紀スイスの科学者ソシュールです。

高山や地中・水中などにおける測定に用いるためにソシュールは多くの測定機器を改良、考案しています。

毛髪湿度計

1783年に出版された『湿度測定法に関する試論』 (Essai sur l’hygrométrie) では、あらゆる気候と温度において色々な形式の湿度計で行われた実験が記録されており、他の湿度計に対する彼の毛髪湿度計の優位を立証しています。

ソシュール毛髪湿度計

ソシュール毛髪湿度計

 ソシュールは毛髪が湿度によって伸縮することに注目、これを器械に組み込んだのが毛髪湿度計です。
毛髪の片方を固定し、もう片方には重りを連結させて、毛髪がいつもピンと張った状態にしておき、毛髪の伸縮によって指針を動かすしくみです。
毛髪はそのまま使うのではなく、脱脂して用いました。脱脂すると伸縮変化は数倍も高まるからです。また、いろいろと試した結果、若い女性の長い金髪が最適であることもわかりました。簡単な装置ながら、なかなか感度の高い湿度計です。

2-7-5.

フランスの化学者、ゲイリュサックが、蒸発の程度を気化熱による温度の低下で測定する乾湿球式湿度計を着想し、 ドイツの化学者、アウグスト・ウイルヘルム・フォン・ホフマンにより1825年にアウグスト乾湿計が考案されました。

ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック(Joseph Louis Gay-Lussac、1778年12月6日 - 1850年5月9日)

ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック(Joseph Louis Gay-Lussac、1778年12月6日 – 1850年5月9日)

アウグスト・ヴィルヘルム・フォン・ホフマン(August Wilhelm von Hofmann、1818年4月8日 - 1892年5月5日)

アウグスト・ヴィルヘルム・フォン・ホフマン(August Wilhelm von Hofmann、1818年4月8日 – 1892年5月5日)

アウグスト乾湿計は、湿球と乾球とを大気中に開放し固定しての測定に用いられます。
1~2%程度の誤差が無視できる場合、気圧測定を行わずに1気圧のときの湿度算出表を用います。
現在でも市販の乾湿計はアウグスト乾湿計です。 湿度算出表を標準装備していて便利になっています。

 乾湿計

シンワ測定(株)  シンワ乾湿計 E-2
(株)佐藤計量器製作所/SATO 乾湿計 SK式1号

 

2-7-6.

乾湿球式湿度計の蒸発の程度は、球部にあたる風速によって影響を受けるので、 ドイツの気象学者、アスマンは1887年に乾湿球式湿度計に通風機構を設けてこの影響を一定にするアスマン通風乾湿計を考案しました。

アドルフ・リチャード・アスマン(Adolph Richard Aßmann 1845年4月13日-1918年5月28日)

アドルフ・リチャード・アスマン(Adolph Richard Aßmann 1845年4月13日-1918年5月28日)

三重吸引型 アスマン式乾湿計 ( 1900ころ )

三重吸引型 アスマン式乾湿計 ( 1900ころ )

アスマン乾湿計は今日でも、広く用いられています。

日本カノマックス社製 ゼンマイ式1221 / 日本カノマックス社製 電動式1221-01

2-7-7.バイメタル式湿度計

測定部分は、塩分を染みこませた濾紙を感湿材として金属(真鍮)の薄板に貼りあわせ、ゼンマイ形のコイル状に巻いたものです。

湿度が上がると紙は吸湿して膨張し、いっぽう真鍮は伸びないためコイルが変形して、ゼンマイが巻きあげられ先端の指針を動かします。

構造が単純で安価なため家庭用として広く普及していますが、誤差が10%以上生じる場合があり精度は高くありません。

また数年でコイルが劣化して寿命となることもあります。

バイメタル式湿度計の内部

バイメタル式湿度計の内部

2-7-8.電気式湿度計

電気式湿度計

電気式湿度計の電子センサーは容量性及び抵抗性のものがあります。
両者とも感湿体として多孔質のセラミックス又は吸湿性の高分子膜を用いています。

容量性センサーは、感湿体を挟む2つの板状電極の間に交流電圧を印加することによって、感湿体の水分吸収に伴う誘電率の変化がもたらす電極間の静電容量の変化から湿度を測定します。

抵抗性センサーは、感湿体の水分吸収に伴う導電性の変化を計測します。

測定原理の性質上、温度変化による誤差(温度ドリフト)を避けられず、気象観測用としては、これを温度変化1℃につき湿度0.2%以内に抑えなければならないため、実際の製品では温度センサーを用いた補償回路を内蔵していることが多くあります。

また、感湿体にフィルターを装着しているとはいえ、表面の汚損等による経時変化が避けられないため、定期的な整備と校正とが必要です。
気象観測用として許容される器差は、湿度±5%(ラジオゾンデ用の場合、湿度10%)です。

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